渡り鳥の聖地
蕪栗沼は日本でも有数のマガンの飛来地として知られています。秋から冬にかけて、数万羽ものマガンがシベリア方面から渡来し、越冬します。
早朝、夜明けとともに一斉に飛び立つ「マガンの飛び立ち」は、空を覆うような圧巻の光景です。また夕方には、夕焼け空を背景にねぐらへ戻る群れが見られ、訪れる人々を魅了します。
このほか、オオヒシクイやオオハクチョウ、コハクチョウなども姿を見せ、多様な冬鳥の楽園となっています。
国際的にも重要な湿地
蕪栗沼とその周辺の水田は、2005年に国指定蕪栗沼・周辺水田鳥獣保護区(特別保護地区)に指定されました。その面積は3061ヘクタール、うち特別保護地区は423ヘクタールに及びます。
さらに、同年にはウガンダで開催された第9回ラムサール条約締約国会議において、「蕪栗沼・周辺水田」として登録されました。湖沼だけでなく周辺の水田も含めて登録された事例は世界的にも珍しく、渡り鳥と農業が共存するモデルとして注目されています。
ふゆみずたんぼ ― 鳥と人をつなぐ農法
蕪栗沼周辺では、冬に田を耕さずに水を張る冬期湛水(ふゆみずたんぼ)が行われています。これは、渡り鳥にとって餌場や休息地を提供すると同時に、鳥たちの糞を天然の肥料として活用する農法です。
こうした取り組みによって、地域の農業と渡り鳥が互いに支え合う関係が築かれ、持続可能な自然環境の維持に貢献しています。
生き物たちのすみか
沼にはフナ、コイ、マハゼ、ボラといった魚類が生息し、豊かな水辺の生態系を形成しています。水辺に繁るヨシやマコモは小鳥や昆虫の隠れ家となり、湖面や浅瀬ではさまざまな生物が命を育んでいます。
蕪栗沼の歴史
江戸時代の地誌『封内名跡志』によると、沼の周囲には栗の木が多く、美味な栗が採れたことから「蕪栗」という地名が生まれたとされています。一方、『安永風土記』には、熊野神社近くの畑で栗のような風味の蕪が採れたため、神を「蕪栗明神」として祀ったことが地名の由来と記されています。
また、仙台藩の時代には、この沼で捕えた鳥を献上し、沼の出水部に梁場を設けて税を納めていたことも記録されています。
蕪栗沼は丘陵地に囲まれた天然の遊水地で、複数の河川が流れ込み、周囲には三角州が形成されていました。この地形は新田開発に適しており、江戸時代から昭和の戦後まで干拓が行われ、沼の周囲は徐々に水田へと変化していきます。
しかし1997年には、隣接する白鳥地区50ヘクタールが沼地として復元され、かつての自然環境の一部が取り戻されました。
渡り鳥と地域の共生
1999年、田尻町は渡り鳥による食害を補償する条例を制定。農作物への被害を抑えつつ、渡り鳥との共生を目指す取り組みが本格化しました。こうした努力が、現在のラムサール条約登録や鳥獣保護区指定へとつながっています。
見どころと楽しみ方
バードウォッチング
蕪栗沼の最大の魅力は、やはり渡り鳥の観察です。特に11月から2月にかけては、数万羽のマガンが早朝に飛び立つ光景が見られます。観察ポイントや展望台も整備されており、カメラや双眼鏡を持参するとより楽しめます。
四季の風景
春は芽吹く水辺と花々、夏は緑豊かなヨシ原、秋は稲穂とともに舞う渡り鳥、冬は雪景色と白鳥の群れと、四季折々に異なる魅力が広がります。
アクセス情報
所在地:宮城県大崎市(旧田尻町)
交通:
・JR東北本線 田尻駅から車で約20分
・東北自動車道 古川ICから車で約45分
訪問時のお願い
蕪栗沼は国際的に重要な自然環境を有する湿地です。訪れる際は、ゴミを持ち帰り、野鳥や植物を驚かせない行動を心がけましょう。未来の世代にもこの美しい自然を残すため、一人ひとりのマナーが大切です。
渡り鳥と人とが共に生きる風景、蕪栗沼。ここでしか出会えない感動と季節の物語を、ぜひご体験ください。